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2014.11.11

アメリカの恥部を遠慮なく描いた問題作『SiCKO』

『華氏911』のマイケル・ムーア監督が描く問題作!

9.11同時多発テロを中心にブッシュ政権批判したドキュメンタリー映画『華氏911』で話題になったマイケル・ムーア監督が、2007年に公開したのが『SiCKO(シッコ)』です。日本公開時のキャッチコピーは “テロより怖い、医療問題” で、そのコピー通りアメリカの医療問題をシニカルに扱ったドキュメンタリー映画になっています。

 

「金儲けこそ全て」アメリカの腐った医療保険システム!

まあ、自慢できるような話ではないので日本人にはあまり知らされていませんが、実は先進国と胸を張る欧米諸国の国々の中で、アメリカは唯一 “国民皆保険が導入されていない国” なのです。 アメリカ国民で、自由診療…つまり病院に行って診察を受けるたび、全額を実費負担している人は全国民の20%近くいます(この映画の政策当時の話)。もちろん自由診療が安いというわけではありません。保険未加入者はあまりにも高額な治療費を支払うことが出来ず、自分で傷口を縫ったり、2本切断した指のうち1本を繋ぐ手術を諦めたりしているわけです。 またちゃんと医療保険に加入している80%の国民が満足な医療サービスを受けられているかといえばそうでもありません。アメリカの医療保険は一般の営利企業が営んでいます。ビジネスとして保険を扱っている営利ガリガリの企業が考えることといえば、請求された保険を支払わない事で、保険会社はありとあらゆる手段を使い、申請された保険の支払いを拒否し、少しでも病気になる可能性のある人間の保険加入を許しません。 この映画の前半では、実際にそんな保険会社のやり口でひどい目にあった人々からの情報をネットで募集し、アメリカの医療保険システムがいかに腐っているかを暴き出しています。

Health care?
Health care? / craig.keeling

 

「医療費がタダなんて信じられない」外国の医療制度を見るアメリカ人

物語はアメリカ国内に留まらず、越境してカナダ人の内縁の妻と身分を偽り、カナダで医療サービスを受けるアメリカ人をはじめとして、イギリスやフランスの医療制度の実態紹介します。イギリスやフランスへの取材は、マイケル・ムーア監督自身が登場し、医療費が本当に無料で提供されている事を疑い、あれこれ質問をしていきますが、国民皆保険システムが導入されている国の人々から、逆に笑われてしまうわけです。 そして物語の終盤、これはこの映画が日本で公開される前に、宣伝の一環としてネタバレされていたエピソードですが、マイケル・ムーア監督は9.11テロの救助ボランティアの人々が満足な医療サービスを受けられていないのに、テロを引き起こした容疑者たちは、軍の管理下の元で手厚い医療サービスを無料で受けていることを知ります。 監督と9.11テロの救助ボランティアで病を抱えている人々は、ボートを借りてテロの容疑者たちが収容されている軍施設の近くまで乗り付けて、 「ここに9.11で病を負った人々が来ています。彼らにテロの容疑者と同程度の医療サービスを与えてください。“以上”ではなく“同程度”でいいんです!」 とハンドメガホンで呼びかけるわけです。 結果は無視されるわけですが、こうした皮肉たっぷりな抗議行動は、アメリカの抱える医療問題という笑えない話を、シニカルな笑いを持って考えさせる監督特有の手法でしょう。

Sicko
Sicko / oswaldo

 

オバマケアは『SiCKO』の影響?そしてこの映画の全てが真実はない

『SiCKO』が公開されのは2007年です。その後大統領に就任したバラク・オバマ大統領は、医療保険の加入率を上げるため、様々な医療制度改革を試み、それは“オバマケア”と呼ばれています。既得権益を守ろうとする医療保険業界の息が掛かった議員たちの妨害に遭い、オバマケアは成功したとは言えませんが、腐りきっているアメリカの医療問題に目が向けられたのは、『SiCKO』の影響があったかもしれません。

Obama Health Plan
Obama Health Plan / AZRainman

この映画は日本ではそれほどヒットしませんでした。『SiCKO』という発音が、日本語の小便に似ている事が客足を遠のかせたという話もありますが、「SiCKO」というのはアメリカのスラングで、「狂人」や「変人」という意味で病気の「sick(シック)」に掛けたダブルミーイングになっています。 ただこの映画を観た人は、イギリスやフランス、そしてキューバでの医療サービスが本当に全て無料だと感心してしまう人がいるかもしれませんが、実際には映画で登場した国でも、医療費の自己負担はある程度あります。特にキューバでは映画で受けたような医療サービスを受けるには、役人への賄賂が必要だと言われており、あまりに現実とかけ離れているためにキューバでは、この映画の上映が禁止になりました。 ドキュメンタリー映画というのは、製作者の思惑によって事実が誇張されているのはよくある話です。映画で提起される問題をより際立たせる為には、事実を事実として伝えるだけより多少大げさにした方が良いということでしょう。

 

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□V(-¥-)V ごとう さとき

駄文屋

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